『庭』
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2019-11
小山田浩子を読んだときの驚きは、初めてリバーサルフィルムを見たときのそれに似ている。ネガなのにポジだ!みたいな感じ。
通常、本を読むときは文字を読み頭の中にその情景を思い浮かべながら読む。この本も最初はそのように読んでいたのだが、あるところから文字がそのまま立体になるようなそんな感覚になった。その感覚を持ったまま日常生活を送っていると、逆バージョンの現象も起こった。何気なく聞いていた人の会話が文字になる。
普通に会話をしていたはずの二人。あるところから一方の口数が圧倒的に多くなる。それは何か都合の悪さを隠したいからなのだろうなと傍目から見ていても感じるのだが、もう一人は静かに相槌をうち特に話が急展開するわけでもない。滑稽だがそういう場面は日常にも潜んでいる。そんな滑稽さを小山田浩子は見逃さず文字にする。それもかなりしつこく。
読みながら、そうだよなと思った。私たちの、少なくとも私の日常はこれぐらい混沌としている。きれいに整った起承転結なんかないし、わけがわからないことだらけだ。わけがわからないことだらけなんだけどそれなりに面白いし、混沌とした毎日のなかにも何かしら光っているものがある。そんなものを見つけ出す著者の目を追体験するようなとても身体的な読書だった。
『庭』小山田浩子