『ジョン』
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2020-02
ある日実家に行くと玄関に飾られた花瓶におそらくこの本の表紙に描かれているであろう花とツツジが一緒に生けられていてぎょっとした。
「お母さん、このケシの花は繁殖力がとても強くてですね、生やしていると生態系に影響がある花らしいよ」と最近ネットで仕入れた情報をもっともらしく話したところ、母の反応は「で?」だった。その後もこの花は庭に咲き続け、毎年季節の訪れを知らせている。
早助よう子の短編集『ジョン』も、うちの母の「で?」のような態度がそこかしこに潜んでいる。そう簡単にこちら側の思い通りにはならない展開に、面白すぎて腹が立つという言葉を思わずこぼしてしまった。
野宿者が暮らす川辺を舞台に描かれた表題作の『ジョン』の書き出しはこうだ。“川面から吹き上げる風をまともに額に受けた二百人もの男たちが、包丁を手に野菜の皮をむき刻んでいる。” 私はもうここでノックアウトだった。かと思えば、放射能汚染を心配する母親を描いた『家出』には“すみれ色に染まった東空をつばめが飛び交う頃”なんていう風景の描写がでてきたりして、そのギャップにやられてしまう。
残りが少なくなっていくページを惜しみながら、ああいつまでもこの作家の小説という手のひらの上で遊んでいたい。しみじみとそう思った。『ジョン』早助よう子