『たんぽぽのメニュー』
-
2020-10
1978年に刊行された本の復刊。
向田邦子や沢村貞子からも強い支持を得ていた著者。わたしはこの本が初めての出合いだったので、「復刊してくださってありがとうございます」という気持ちでいっぱいになった。
もともとの題は『つれづれの味』。食べ物をテーマにしているが、どのエッセイも印象に残るのは人間のことだった。ある時はガリ版ずりの同人詩集から、またある時はかげふみに興じながら歩く親子から、優しくも鋭い観察眼で写生された文章は読むものにありありとその場面を想像させる。その描写の正確さゆえに今の時代とすっと繋がるのかもしれない。
“変わってほしくないものが、変わってしまい、変わってほしいものが一向に変わらない。”この一文が心に刺さる。今、大変ななかで必要な場所を守ろうとしてくれている人々への感謝の思いが募る。わたしも今見ているものをできるだけ忘れないように言葉にしておきたい。そんな気持ちを強くした。『たんぽぽのメニュー』 増田れい子