『西の魔女が死んだ』
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2020-06
何年か前フィンランドへ留学に行くとき、どの本を持っていこうか悩んでいた。彼に「西の魔女が死んだ、とか良いんじゃない?」と言われ、親友にも「西の魔女が死んだ、とか似合うよね」と言われた。彼とも親友とも、西の魔女が死んだについて話したことはなかったのに。文通していた知人からも、留学の知らせへの返事と一緒に同じ梨木香歩の「エストニア紀行」が送られてきた。
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最近仕事で、自分の企画がうまくいってチャンスがめぐってくるようになってきた。皆が驚くような幸運によって就くことのできた仕事。しかも、働きながら大学院にまで通ったりしている。はたからは、意識高いとも見えると思う。
なのに私は、あまりやる気がない。と言ったらちょっと違うけれど、燃えるような気持ちにはなんだかならない。自分にとって圧倒的に大切なことが日々の生活だと自明であるから、仕事や大学院にメラメラしないんだと、言い訳みたいに私は思う。私たちの日々の生活をずっと守るために、今の仕事をしているし大学院で学んでいるんだと言えるのかも。夫が書いてくれた、このアパートの住人紹介の「頭の中は、今日の夕飯について、地球の未来について、彼女にとってはこっちもあっちも自分事」も、そういうことを語っている。私が留学するときに彼らが同じ梨木香歩の本を選んでくれたことは、そのことに繋がっているんじゃないかと思った。
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子どもの頃母親に「私は結婚するまで魔女やった。家族を危険にさらさないため魔力を捨てた」といつも聞かされていて、割と信じていた(し、今も少しは)。たぶん、子どもの頃この本を手に取ったのは、私のお母さんも魔女だから。
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西の魔女が死んだ(梨木香歩)