ロゴ

汽水空港

以前にお気に入りの本屋さんに出ていただいた、まがり書房の奥さんに教えて頂いたおすすめの本屋さん。

場所は鳥取県東伯郡湯梨浜町。JR山陰本線松崎駅から徒歩約7分。 鳥取県の中央に位置する東郷湖のほとりに佇み青い屋根と本と書かれた看板が目印。
建物の中に足を踏み入れると、ログハウスのような木の空間には様々な本が一面に広がる。 本のラインナップは古書、新刊やリトルプレスなど。

特集コーナーの本の配置や見せ方にもこだわりが感じられ、面白い本を さらに興 味深いものにしてくれるZINEを斜めに立てたり吊るしたり、見ているだけでも楽しい。ライブや展覧会などのイベントが行われることもあり、遠方から訪れる方もいるのだとか。
そんな魅力のあふれるお店は、鳥取に移り住んだ森さんがガレージだったのをセルフで改装したもの。 地元の左官屋でバイトをして自力で建物を直し小屋を建てる技術を習得したのだそう。 全て手作りで 2015年10月にスタートした本屋さん。実は、開業わずか1年で鳥取県中部地震に見舞われ、お店の営業 を断念せざるを得ない状況に。それから約1年9ヶ月、約半年間の工事期間を経て、2018年7月に再びお店をオープン。そんな物語がある、汽水空港の店主の森さんにお話を伺いました。

本屋を始めたきっかけを教えてください。
___________
18歳で自分の将来を決めることが出来ず、3か月だけ予備校へ行って受かる大学へ入学しました。「この4年間で自分の将来を決めるぞ」と意気込み、興味の赴くままに街へ繰り出していました。
そのうち古本屋や本屋へ通うことが好きになりました。そこでは様々なワークショップや演奏、映像を観たり、トークイベントが開催されていました。と同時に、偏差値の高い大学の授業に潜入したりもしてみました。そうすると良い大学の授業は本当に面白くて、「あぁだからみんな受験勉強がんばるのか。」と、ようやく世界の仕組みが分かったのですが時既に遅し。
しかしよく考えると、学びの場は既にお気に入りの本屋で提供されている。そこで見聞きした本を買ったり借りたりして、また問いが生まれ、また本を読む。そのような生活をしていました。そして本屋に入るのには誰の許可も要らず、年齢制限も無い、授業料も入場料もない。全ての人がいつでも学べる素晴らしいスペース、それが本屋だということに気づきました。よし、自分も本屋をやろう。このようなスペースはいつでもどこでも誰にとっても必要なはずだ。まずは有機農業研修へ行こう!(と、本屋を始める前に農業の勉強をスタートするのですが、それはまたどこかに書きます。)

この場所ではじめた理由を教えてください。
___________
「畑をしながら本屋をやる」という希望があったので、そこそこ田舎を狙っていました。だけど駅が近くて公共交通機関で来ることができる立地であること、そして自分以外に同世代の人がスペースを運営していたりすること、自分が気に入ることを条件に土地を探しました。
この土地は近所に「たみ」というゲストハウスがあり、駅が近く、温泉があり、店の目の前に湖があります。畑もすぐ近くにあります。色々な条件が揃って気に入ったのでここを選びました。

他の本屋さんとここが違うところはありますか?
___________
本屋をスタートする前に畑の修行と、建築現場で働きながら家を建てる技術を覚えつつ開業資金を貯めました。という流れがあるので、店をやりつつ畑で様々な野菜やハーブを栽培しつつ、誘いがあれば建築現場へ働きに出ています。店の物件をセルフビルドした本屋もあまり聞いたことがないので他の店と違うポイントかもしれません。

森さんののこだわりを教えてください。
___________
世の中にもっと「幅と揺らぎ」があるといいな~と思っています。カオスとコスモスの狭間、「カォスモス」な感じになるように場所を運営しているつもりです。

今後やっていきたいことを教えてください。
___________
畑に読書の為の小屋をいくつか建て、1ドリンクとセットでお客さんに1日小屋を貸す。というようなことを考えています。お茶を飲む為に考え出された茶室のように、最適な広さがあるはずで、刀を置かなければ入室できなかったように、スマホを置かなければ入れないというような設計を妄想しています。
あと、行ったこともないのに台南に支店を作りたいです。台南の暖かい地方でしか育てられない作物やハーブ、スパイスを育てながら年中半袖半ズボンで暮らす。できた作物を鳥取本店に卸す。とかできたら最高です。向こうでは台湾と日本の良い本を売り、宿泊もできて畑もできて…とか妄想してます。

お気に入りの本を教えてください。
___________

・『雪に生きる』猪谷六合雄著

猪谷さんは日本の近代スキーの草分け的存在なのですが、あらゆるモノを自作する工夫の人です。スキー板自体も当時の日本に流通していなかったので木の板を削り作りました。そしてジャンプ台(一言で言うと丘)も自作します。飛び方も大けがしながら独学で学び、生涯に幾つも自邸を建てます。靴下も編むのですが、そのクオリティがめちゃくちゃ高く、数年前の暮らしの手帖で特集されていました。最終的に70歳で運転免許を取得、キャンピングカーを自作し移動しながら暮らした人物。雪に生きるはその自伝です。

・就職しないで生きるには』レイモンド・マンゴー著

20歳の頃に古本屋で手にしてしまった本です。レイモンド青年が70年代にアメリカで本屋を経営した自伝です。正に当時自分が就職する自信がなかったので、救われたくて手にしました。この本の中で挿絵と共に掲載されているジャックケルアックの『路上』からの引用、「おれのいう人間ってのは、夢中な連中のことだ、生きるのに夢中、おしゃべりに夢中、いちどにすべてを望む、金輪際あくびをしたり、月並みなことをいわない連中—だれもが「アウウウー」ってなっちゃうローソクみたいに、もえて、もえて、もえる連中だ。」という文章が自分の心に炸裂してしまい、今こんなことになりました。

・『バベる!!』岡啓輔著
先日汽水空港にもお招きしトークしてくださった岡さんの本。 岡さんという人は蟻鱒鳶ル(アリマストンビル)というビルを10年程かけて主に一人でコツコツセルフビルドしている方です。そのコンクリートは200年保つと専門家に言われています。東京都内で、200年後の世界を見据えながら今も日々建築しています。お金とか、評価を超えたもっとディープなスピリットを感じます。それは「つくる悦び」という抽象的な心を、目に見える具体的な物体として都市の真ん中に200年間屹立させる行為です。その悦びが人々に伝播することを願って。本人はどうか分かりませんが、僕は信じられるものが少なくなった現代に、新しい神話を作ろうとする行為に思えて仕方ありません。

本屋さんをするかたわら、大工や畑の仕事を楽しむ森さん。
「畑をしながら本屋をやりたい」だったら農家に住み込みで働き農業研修を受けよう! 本屋をつくるために大工の仕事して勉強しよう!やりたいこととか夢があるならとりあえず動いてみようという森さん。つぎにやってみたいことは「畑に読書のための小屋をつくる」こと。そんな小屋ができることを想像するだけでわくわくしてしまう。逆境でも負けない夢と情熱が詰まった本屋さんは、まだはじまったばかり。これからどんな物語を 見せてくれるのか とても楽しみ。

汽水空港

  • ADDRESS | 〒689-0711 鳥取県東伯郡湯梨浜町松崎434-18
  • 出発 / 最終便 | 11:00 / 19:00
  • 欠航便 | 木曜日
  • お店情報は取材当時のものです。詳しくはお店にご確認下さい。

    ホームページ

tag:
———Top