『わたしを空腹にしない方がいい』
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2019-03
ライブラリーにめぐみさんが置いてくれていたこの本を借りて読み始め、フレンチトーストのページが過ぎた頃、これは買わなあかんやつやわ。と思って、本屋に走った。手におさまりやすい薄い文庫本サイズで、通勤のお供にぴったりだとカバンにしのばせた。
珍しく少し早くに職場の最寄り駅に着いたので、駅に隣接する喫茶店に入って続きを読んでいたところ、次から次に涙がこぼれてきて、これじゃあ仕事に行けないと、駅の看板に描いてあるICカードのキャラクターのカモノハシと目を合わせて心を無にしなければならなかった。
どうして、私はこんなに食べ物のことばかり書いてある本を読んで泣いているんだろう。食べ物のことを考え過ぎて、脳の感情を司る部分が支配されてしまったのではないかと、よくわからない仮説を立ててみたが、そんなことは聞いたことがない。一体、この本の何に心が揺さぶられるのか。食べ物の描写が素晴らしいのは言わずもがなだ。シュークリームは確かに「犬歯に触れて、ふしゅ、と鳴く」よね。最高。でもきっとそれだけじゃない。6月30日の日記に、その答えが書いてある気がした。著者の「書くことと料理をすることに救われている」という姿勢に、私は共鳴したんだと思う。
思うように文章が書けたと思う時と、思ったとおりに料理ができた時の喜びは似ている。思ったことをなかなか上手く話せないから、頼むから一度書かせて欲しいと思うのと、私はゆっくりと材料を切って、火にかけて、味見してから食べたいんだと、叫びたくなる感情は似ている。そればかりじゃいけない、とも一応は思ってる。思ったことは言わないと伝えられないし、ご飯もちゃっちゃと作れた方が良い。思ってるけどね、もう少し待ってくれやしませんか。言葉も食べ物も愛しているから、ゆっくり口の中で飴玉を転がすように、あぁでもないこうでもないと言いながら、愉しみたい。その先にある満足感は、いろいろと上手くいかなかった今日の私を幸せにしてくれるから。
さぁさぁ、そんなことを考えながら手を動かしているうちにご飯ができました。今日は砂肝と白ねぎをにんにく醤油で炒めてみました。皆さん、一日お疲れ様です。カンパーイ。『わたしを空腹にしない方がいい』くどうれいん