『TIMELESS』
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2020-01
最初、雪のシーンから始まるこの小説を冬に読み始めたことが嬉しかった。美しい言葉を何度も読み返す。ステッチをするように。
主人公はおそらく自分と同年代ぐらいで、これまでの10数年とこれから先の10年ぐらいのことが書かれている。物語のところどころで起こる、地震、テロ、病気(抗生物質が効かなくなる)、もちろんない方がいいことばかりだが、どれもがそんなに遠くない未来に起こりうるとされていることだ。 緻密に作り込まれた世界のなかで、優雅に見える日々を過ごすこの小説の登場人物たちが私は好きだ。数十年の経過をたどるはずの話なのに、もっといろいろ恨んだり怒ったりしてもいいはずなのに、何ページもかけてゆっくりと食事をしたりする。美味しそうなものや、綺麗なもの、いい匂いのするものがたくさん出てくるところも好きだ。それらからは、その瞬間の濃厚な「今」を感じることができる。
変化の時代と言われ、一年先のこともよくわからないような気がしてしまう。不安なニュースも多い。しかし、未来といっても今の続きであることは大昔から変わりようもない。そうやってしぶとく生き残ってきたのが、私たちなのだ。ならば、今をどう生きるのか。そんなヒントをこの小説に探してしまう。
『TIMELESS』朝吹真理子