『ロマンシエ』
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2019-10
心の底から愛おしいと思う物語に出会ってしまった。
「君が叫んだその場所こそが、ほんとの世界の真ん中なのだ。」
行きの電車でうっかり涙ぐみ、帰りの電車でこの文を書いているのだが、この言葉だけでまたもや泣いてしまいそうである。
パリの街を舞台に繰り広げられる乙女なアート美男子、美智之輔のラブコメディ。物語は、2015年から2016年にかけて行われた、東京ステーションギャラリーの実際の展覧会とリンクしているのだが、これは是非とも訪れてみたかった。
恋に夢に全力疾走する彼の姿を見ているとなぜだろうか、とても泣きたい気持ちになる。それは彼が健気だからとか、かわいそうだからなんて理由じゃなく、彼の真っ直ぐな姿を通して、大人になるにつれて好きなものを大声で好きだと言えなくなっている自分に気づかされたからだ。他人の目を気にして、馬鹿にされるんじゃないかと怯え、それなりにうまく場をやり過ごすことばかり上手になってしまったことに気づかされたからだ。そしてそうする度に、自分の心が少しずつ傷ついていた事に、気づかされたからだ。
帯に書いてある原田マハさんの言葉。「美智之輔は私自身、そしてあなた自身。彼と一緒にいっぱい笑って、いっぱい泣いてください。」この言葉通り、これは彼の物語であると同時に、紛れもなく私たちの物語でもある。
「好き」という気持ちの強さが、輝きがこの物語には詰まっている。「誰かを好き」、「何かが好き」。どんな「好き」も美しく、尊いものである証明がこの物語にはある。
世界中の「好き」が、何者にも阻まれず、自由でありますよう願いを込めて。『ロマンシエ』原田マハ