『殺人出産』
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2019-03
なんて正しい世界の中に私たちは生きているのだろう。
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初読は大学2年生。突拍子もない設定なのだけど、どこかリアルさを感じてしまうような。ー10人産んだら、一人殺せる。それが「正しい世界」。「正しい世界」で、私は何を思うのだろう。
「10」人と「一」人の書き分けは、本文ママ。「産み人」が産んだ「センターっ子」は算用数字、「産み人」が殺す「死に人」は漢数字。たぶん、「センターっ子」はあくまで「生殖」によって増殖した、個が無い「生体」として、「死に人」は「産み人」が相手を思い続けて手を下す、その人「個人」として見なされているのかな、と思った。生殖と恋愛が完全分離した「正しい世界」への違和が、物語の随所に散りばめられている気がする。
ディストピア小説なのかな、と一瞬思ったけれど、よーく考えてみると、なんだかちょっと腑に落ちない。『殺人出産』では、イデオロギーの批判というより、イデオロギーの解体、なのだと思う。物語内容における「普通」への違和を書くことで、実は私たちの「普通」を問うているような。
ちっちゃい頃は、普通に恋愛してお嫁さんになってお母さんになるんだ、なんて思っていたけれど、普通ってぶっちぎって1番難易度高いよな、と思う今日この頃です。『殺人出産』村田沙耶香