『不連続殺人事件』
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2019-02
そんな証拠を吹きとばすぐらい、それぐらいの智恵をオレに信じてくれてもよかったじゃないか。
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初読は大学4年生。もっと早く読んでおけばよかった、と大後悔した。めちゃくちゃに面白かった。純文学の作家が、ここまで探偵小説を本格もの、かつ喜劇もので書けるのか、と。ここに安吾の探偵小説のパラドクスがあるのだと思う。『不連続』のトリックは、時代、社会、場所、人間関係、その全てが伏線であり、読了した時に気づかされる。「心理の足跡」とあるけれど、そこに喜劇的な要素が内在していると思う。「人間」を風刺的に書きながらも全肯定している。戦後という特殊な空間でこそ求められた「人間」像がある気がする。
最後のシーンが本当に好き。ここまでは「心理の足跡」に拠って事件の真相が明らかになっていくけれど、最後に「ぬきさしならぬ物的証拠」が提示される。「人間」そのものがもっともあらわになっているシーン。
安吾は、解決篇の原稿料を賭けた読者への挑戦状を掲載したそうだけれど、私の灰色の脳細胞はまんまとだまされてしまった。ちょろい読者である。
坂口安吾『不連続殺人事件』