『おとぎのかけら新釈西洋童話集』
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2019-04
本当に幸せになれたのは誰か?
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装丁の赤色が目についた。おとぎばなしと赤は親和性が高い。愛らしいのに、どこかほの暗く背徳的だと思う。
印象的な短編は、ヘンゼルとグレーテルを下敷きにした『迷子のきまり』。兄妹の「めでたしめでたし」はどこに行きついたのだろう。たしか童話は、兄妹が木こりの父のもとに帰って一緒に暮らすはずだが。
どの短編も、現代かつ個人の単位で書かれているため現実味があり、生々しい匂いがする。だが、おとぎばなしの要素が散りばめられているため、どこか幻想的でもある。
小さいころ、おひめさまとおうじさまが「しあわせ」になるおはなしをよく読んでいた。あのころは「おおきくなったら、おうじさまがくるんだ」と無邪気に信じていた。だが、「しあわせ」って何だろう。あのころは、「すてきなはくばのおうじさま」に出会って、恋に落ちて、結ばれて、めでたしめでたし、だったと思うし、今でもどこかでその「しあわせ」に憧れる私がいる。「おとぎばなし」の力は強大だ。私の中にかけらがはめ込まれているのだろう。
イマドキのお姫様は、王子様がやって来るのを悠長に待っている時間はない。朝起きて学校に行ったり仕事に行ったりしてタスクをこなし家に帰って家事をしたら、0時になっている。魔法も何もあったものじゃない。お姫様の時間もフレックスにならないかな。『おとぎのかけら新釈西洋童話集』千早茜