『バウルを探して<完全版>』
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2021-08
勤めていた国連を辞めたばかりの川内有緒さんは、「バウル」と称されるベンガルの吟遊詩人を探しにバングラデシュへ赴いた。バウルの手掛かりを求めて町を訪ね、人と出会って話を聞いてはまた移動する。次第にその本質へと近づいていく、約2週間の旅の記録を書きつけたのが本書だ。
読み始めるとぐいぐいと引き込まれて一気に読んでしまった。バウルが何か見当がつかずに読み始めても全く問題ない(ほとんどの人がそうだと思うけれど)。旅の一行がずっと移動するのでロードムービーのように景色が変わり、どんどん次の景色が見たくなるのだ。何が起きるかわからない、それが楽しいという旅の醍醐味を存分に味わえるのもいい。しかも今回は、実態がわからないバウルを追いかける旅なのだから、川内さんの心にも時折不安がよぎる。そんなときの最後の頼みの綱は、自分の感覚しかない。
その不安な感じと、直感を信じて腹を決める様子は、人生にもそのまま当てはまる。
本の終盤、こんな言葉が出てくる。
「人生は目的に向かって行動した結果ではなく、むしろ瞬間、瞬間の気ままな鳥に従った結果なのかもしれない。」
今の自分が想像できることなんてたかが知れているのに、その未来のために逆算だけで今の行動を決めるなんて、つまらない、間違ってる!でも不安になるよね・・という、あともう一歩腹が決まっていない中途半端な私は、この一文を読んでなんだかほっとした。心がうれしい方に進んでいいんだ。きっとその方が私には合っている。その直感を信じ、何が起こるかわからないことを楽しんで、心が決めたその結果を受け止めて生きていけたらいいな、と素直に思えたのだ。
さて、バウルって何者?というちょっとした興味から始まったこの旅は、思いのほか自分の深いところへと降りていく内省の旅でもあった。川内さんにとっても、読者にとっても。どんな旅になったのかは、ぜひ最後まで読んでもらいたい。
旅の途中で出会うバングラデシュの優しい人たちにはにこにこさせられた。言葉が通じなくても心が通じていると確かにわかるときの、あのじーんとする感じ。言葉が通じないからこそ、心が通じやすくなるのかもしれないですね。
『バウルを探して<完全版>』川内有緒・文 中川彰・写真 三輪舎