『急に具合が悪くなる』
-
2020-01
いきなり大きく出るけれど、この本は、自分の人生を生きようとするすべての人に関係のある話だから、具合が悪くなりそうにない人もぜひ手に取ってみてほしい。
がんを患い具合が悪くなる哲学者の宮野真生子さんと、人類学者の磯野真穂さんの往復書簡で構成されている本書。テーマは、必然的に「生きること」に焦点が合っていく。これまで見てきたものも生き方も違う二人が、お互い遠慮なしに、ときに凄みをもって、熟考した言葉を投げ合い、深く関わっていく。そして相手に語りかける中でぽろっとこぼれたいくつかの人生の真実と思える事柄は、私の人生をも照らしてくれた。(たとえば、人生には決まっている筋書きなんてなくて、どんなに“詰んだ”ように見えるその瞬間にも次の一歩は360度どちらへでも踏み出せるのであって、それを決めるのは自分自身だということとか。)
この本自体、往復書簡がどのような内容になるのかも、本として出版されるということも、やりとりが始まった当初はまったく予想されないことだったけれど、こうして今私はこの本を読んで心を動かされ、感想を書いている。現実の中で、人が人の想いに反応して、それが別の事柄を生み出していく様子を目の当たりして、本書の中でも語られる”分厚い時間”が発生していく様子を体現している稀有な本。総じて、ライブ感がすごいのだ。
確定した未来なんてない。常に何がどうなるかわからない。急に具合が悪くなるかもしれないし、約束は守れないかもしれない。そんなモザイクかかりまくりな未来を、不安の渦ではなく、ただ編まれる前の毛糸のようなものとして、他人というますます不確定な存在と一緒に、偶然を織り込んで編んでいく。それこそが、生きる喜びだということ。未来は常に、今、ここで発生しているということを、希望をもって力強く伝えてくれる一冊。
急に具合が悪くなる/宮野真生子、磯野真穂