『兄の終い』
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2020-08
ずっと会っていない知り合いが、突然死んだと聞かされたらどう思うだろう。
もし、それが、血のつながった家族だったら?本書は、そんな「もしも」ですらあまり想像したことのない事件が現実に起こった著者が、突然舞い込んだ兄の訃報を聞いてからの数日間の出来事を綴った本。
人が死んだら、他人ならショックを受けたり悲しんだり思い出話をすることに尽きるが、家族なら、やらなければならないことがたくさんある。遺体の引き取りと火葬。部屋の片づけ。一緒に暮らしていた息子の生活や、学校のこと。そんな一連のTO DOを、久しぶりに会った兄の元妻と二人で、捌いていく。自分たちでやるしかないという覚悟が、兄のアパートのドアの前で立ち尽くすシーンから、生活のまま持ち主不在となった部屋を大掃除するシーンから、感じられる。
かなり修羅場なのに、どこか可笑しみや温かさが漂う文章からは、人生のどんなきついシーンもきっと人はこうやって現実を生きていくんだなという希望を感じる。
ある人の不在によって半ば強制的にもたらされるのは、忙しい日々の中ではわざわざ考えたりしない、だけど人生でもっとも重要なことを考えるための空白だ。仕事も生活も一時休止して、兄のことを考えた数日間、どうしても書き残しておかずにはいられなかった1冊なのだと思う。
兄の終い/村井理子