『かなわない』
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2020-01
今や作家として著書をたくさん出されている植本一子さんを私が最初に知ったのは彼女の本業である写真家としてだった。ウェブサイトに掲載されていた女性のポートレイトにぐっと惹かれたことと、毎月花の写真をカレンダーにしてアップしているのを楽しみにしていた。私家版の『かなわない』が出版されたときに、ウェブサイトから注文して銀行口座に代金を振り込んだら、手書きで宛名が書かれた茶封筒に入ってその冊子はポストに届いていた。その後出版社からも刊行され、多くの人の手に渡ることとなった。
きりきりするほど切実で、真実すぎて痛くなる。現実を突きつけられることには厳しさがある。だけど、それをふわふわしたなにかで覆い隠していたって、あるものはあるのだ。きれいなものばかりではない人生のシーンや自分の心の隅をじっと見て書く植本さんの強さというか、覚悟のようなものと、本当のことの確かさに私は救われていた。『かなわない』というタイトルもとても好きだ。敵わない、叶わない、適わない、その全部であるような気がして。
かなわない/植本一子