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ターミナル起終点駅

2020-02


書店員時代、たくさんの小説を読んで、お客様におすすめするためのPOPを書いてきました。
お店に置いてきたPOPも多いので、今、手元にあるのはわずかですが、POPを紹介しつつ本の紹介もできたら自分が楽しいなと思い、コーナーを始めさせていただくことになりました。
記念すべき!1枚目は…
「ターミナル起終点駅」桜木紫乃 小学館


桜木紫乃さんは、北海道釧路ご出身の作家さん。
描く作品の多くに、過酷な自然や理不尽な無意識の差別と毅然と戦うような、芯のある女性が登場します。
この「ターミナル」でも、そんな強い女性が出てきます。でも、きっと彼女らは自分で強いとか弱いとかは思っていなくて、ただ日々を精一杯生きてきただけだと言うのだろうなと思わせられます。だから強いと思ってしまうのかもしれない。桜木さんの作品を読むのはこの「ターミナル」が初めてでした。他の書店員や出版社の営業の方から、桜木さんの本は読んだ方がいいとおすすめされていて、やっと読めたという感じでした。

昔、書いたPOP文面の原紙を見てみると、あれ? 文章がちょっと違う…。
最後の1行が、原紙にはこう書いてあります。
【なんか誰かにすごい小説読んだよって言いたくなるくらい、読み終えた時の気持ちの高まりが心地よかったです。】
でも、実際に書いたのは、
【すごい小説読んだ!って読み終えた時の達成感が心地良かったです。】
これ、実はPOPを書く時のあるあるなんです。ふふ~ん♪と自由に書いていくと、しまった!スペースが足りない!という事態に何度となく陥ります。きちんと鉛筆で下書きするPOP職人もいると思うのですが、私は適当職人。
その場のノリと勢いで書いちゃうので、足りない…ということがよくある。
この時は、あと1行半のスペースだから最後の文章短くするかぁと、きゅきゅっと編集。


さて、本の話に戻ります。
6つの短編の中で一番心に残ったのは、最後の「潮風(かぜ)の家」。
家族の温かさを知らず育ったために、自分の家族を作ることが出来ないでいる千鶴子が、30年ぶりに故郷の天塩に帰るという話。家族はもうおらず、母の友人であったたみ子を訪れます。85歳のたみ子の言葉が本当に深い。苦労してきたはずなのに明るい。たみ子の生きてきた人生と千鶴子のこれからの人生が重なって、辿った道は違っても、誰もがいつかひとりでいなくなるのだと強く思わせるこの物語は、一見寂しい感じを受けるかもしれません。

でも、その寂しさの先にあるのは、今ある幸せや希望を感じること、楽しむことだと言われているような、じんわりとした温かさもあるのだと思いました。
誰かにとっての始まりは誰かにとっての終わりかもしれない。
誰かにとっての終わりは誰かにとっての始まりかもしれない。
【無縁】をテーマに描かれた短編集だけれど、今まで出会ってきた誰かとの【縁】を感じずにはいられない作品です。
長々と書いてきてしまいました。自分で次回も同じ熱量で書けるのか?とう疑念が頭をもだげてきましたが、とりあえずは、最後まで読んでいただき、ありがとうございました!


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