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mountain bookcase

今回は、Biblio Apartmentに訪れてくれた方のおすすめの本屋さんについて。山梨県・韮崎市駅近くにあるアメリカヤビルの3Fの一室を借りて、3坪ほどの小さな空間で営む「mountain bookcase」さん。 お店には普段感じていることを代弁してくれるような本、興味のあることをさらに深めてくれるきっかけになる本、モヤモヤした気分に元気とヒントがもらえるような本など、その時誰かにとって必要な本が並べられています。

幼い頃にお母さんに連れて行ってもらった喫茶店で電車待ちをした思い出が残る場所が、今のお店があるアメリカヤビル。実は、改装したら面白そうだなと妄想していたビルなのだそうですが、これはきっと何かの縁かもしれないとアメリカヤビルにお店を構えることにしたそうです。
そんな思入れのある場所で本屋を営んでいる店主の石垣さんに、お話を伺いました。

本屋を始めたきっかけはなんですか?
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もともと本が好きだったことから声がかかり、2004年八ヶ岳のリゾートホテル内のブックカフェの立ち上げから責任者として8年ほど勤務したことが、本屋業に関わるようになったきっかけです。 ブックカフェは、2012年に娘が小学校へ上がるタイミングで退職しましたが、そのすぐ後からpop-up shop形式の書店として活動をはじめました。 主にイベントやカフェなどへの出店を中心に活動していましたが、出店を重ねるうちに、拠点があればイベント以外でもゆっくりお客さんと交流ができるなぁと思い、2018年に友人と交代で部屋をシェアする形で今の場所を借り、実店舗をスタートしました。 今年(2019年)の春からは、同じ場所を一人で借りて店を運営しています。

この場所ではじめた理由は何ですか?
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韮崎駅のすぐ裏手にある「アメリカヤ」というビルの3階に本屋はあるのですが、この5階建のビルは1967年に建てられ、かつては土産物店や喫茶店などで賑わっていました。

5年以上前にビルのオーナーさんが亡くなられて、お店を閉めてからはしばらく空きビルだったのですが、今のビル建築にはない魅力を放っていて、ずっと気になっていた建物でした。 2017年の秋にこのビルがリノベーションされて再オープンされることを知り、その時にテナントの話をいただきました。 まずは気軽に立ち寄れるような立地で本屋がやりたいと思っていたので、駅にも近くユニークな存在であるこのビルの一部屋を借りることにしました。 店のある3階は、富士山や茅ヶ岳が見えるとても眺めのいい空間です。屋上からは八ヶ岳も望めます。

他の本屋さんとここが違うという所はありますか?
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なんといっても他と異なる魅力は、レトロなビル全体の雰囲気にあるのですが、店としては実に小さな3坪の本屋です。 そんな小さな本屋のいいところは、お客さんとじっくり本の話や人生の話など、気軽にいろんなお話ができること。 狭いがゆえにそこに居合わせたお客さん同士も、本やお店を通じてゆるやかにつながれるおもしろさがあることが魅力ではないかと感じています。 あとは、このビルの5階には富士山・八ヶ岳・茅ヶ岳など3方に山を望める、眺めの良いフリースペースもあります。(4階の事務所が開いているときは屋上にも上がれます。) 1階にあるカフェのドリンクをテイクアウトして、買った本を5階でハンモックに揺られながら読むなんていう楽しみ方もできます。

石垣さんのこだわりを教えてください
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ひとりの時間を穏やかに満たしてくれるような本、好奇心の扉を開いてくれるような本、主にはその二つを軸にして本を選んでいます。 日々の中で何かに心が動いた時、ふと立ち止まってみる心の余裕や感性を忘れないためにも、そこに本が存在出来たらうれしいです。

今後やっていきたいことがあればお聞かせください
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接客も本屋の仕事ももちろん好きなのですが、人が本を読んでいる風景が好きなので、そんな風景をつくっていけたらいいなぁと思っています。 読書のための「静かな時間」を過ごすイベントだったり、詩や文学の朗読を目を閉じて暗闇で寝転んで耳を澄まして聴くような、「感覚を研ぎ澄ます」イベントだったり、本というものを売るだけでなく、本を味わうための時間や空間をつくってみたいです。 山や海や湖で旅をしながら、そんな風に本に関わる活動をするのもおもしろそうです。 そんな活動に「Bookscape」という名前が良さそうだと、頭に浮かんできました。

石垣さんのおきにいりの本を教えてください
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ささやかだけれど、役に立つこと/レイモンド・カーヴァー
子どもの誕生日に突然我が子を失った両親が、バースデーケーキを注文したパン屋の主人とのやりとりを通じて、その悲しみや心の変化を綴った短編です。 私も身近な人の死を経験してつい最近久しぶりに再読した時に、以前は気づかなかった感情が理解できるようになっていて、読み手の人生における経験が重なることで、深みや理解が増す読書の素晴らしさに改めて気づかされました。

シェイクスピア&カンパニー書店の優しき日々/ジェレミー・マーサー
『ヘンリー・ミラー、アナイス・ニン、ギンズバーグらも集ったこの店に、偶然住み着くこととなった元新聞記者がつづる、本好きにはこたえられない世にもまれな書店の物語』 パリに実在する書店で実際にあった日々の話を読み進むうち、まるで自分もその本屋の一角に暮らす住人になったような気分になれます。合理性ばかりが優先される世の中にこそ、こんなオアシスみたいな店が必要だと思うのです。

ちいさな島/ゴールデン・マクドナルド
短い絵本の中に、自然の営みから自分の世界を大切にすることの哲学まで、人生に大切なことが詰まっています。 最後のページの、この絵本のクライマックスともいえる一文が谷川俊太郎さんの翻訳とともに、まっすぐ心に入ってきます。


皆それぞれの想いを持ちながら、毎日を過ごしているかもしれません。しんどいなという日々もあるかもしれません。それが一冊の本で救われたり、楽しむ術を持つことができたりするかもしれません。本にはまだまだ無限の愉しみが詰まっているという石垣さん。心に留まった数行の文章を収集することばの収集のインスタグラムや、山梨のいまを伝えたいと2013年にはじめたフリーマガジンBEEKの連載もされています。 ギャラリーやワークショップなどいろいろな形で、毎月変化していく「mountain bookcase」。 大型書店では出会うきっかけがなかった心がほどけそうな素敵な本との出会いを作ってくれそうです。Bookscapeという活動も楽しみです。

(編集協力|305号室)

mountainbookcase

  • address | 山梨県 韮崎市中央町10-17、アメリカヤ3F #301
  • お店情報は取材当時のものです。詳しくはお店にご確認下さい。

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