『こんとん』
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2020-01
2019年1月から7月まで BIBLIO APARTMENTの405号室に住んでいた方の本棚にあった一冊
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“ある”者は”ない”事を不幸に思いがちだけど、本当にそうなのだろうか。そのかなしさやさびしさと表裏一体のよろこびやゆたかさがあるのだとしたら、不足感なんて抱かず満ち足りていられるのだとしたら、何をもって不幸といえばいいのか。可哀想とか不幸だとか悪だとか、なにかに対してそう思うとき、じぶんの感覚を疑いたくなる。好き嫌いなら話は別だけど。一方的に色をつけたくないな、と思うし、なにかしらの色を見出すならそれは相手の内にじぶんをみてるのだと感じる。そーゆう視座を忘れたくない。あるがままを観たいといつだって思う。
とはいえ、こんとんはものいわぬ。だって目も鼻も耳も口もないんだって。ただいつも空を見上げて笑っている。名前がないから誰でもない、誰でもないから何にでもなれる。なにやらえたいのしれないやつ。そんなこんとんが愛おしい。そんなこんとんに憧れる。ずっとそんなきみでいてくれよ、なんてことを思う。
こんとん。読む度に、しっぽをくわえてぐるぐるまわるこんとんみたく、こちらの心も頭もぐるぐるしてしまう。ふるふると震えだす。まさに混沌とする。というか、じぶんの内に住まうこんとんに触れるような感覚かもしれない。そう、いるんだよあんなのが。こんとんも、帝も、みんないる。こんとんが空を見上げて笑うとき、なにみてたんだろ、なにかんじてたんだろ。想像したらなんだか、ないはずの目と目が合うような、にっこり微笑む顔が見えたような、そんな気がした。
こん とん こん とん。きみのことがすきだよ、って、わたしも同じ気持ち。
「こんとん」 夢枕獏 文 松本大洋 絵