『センス・オブ・ワンダー』
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2023-01
昔から、目が悪かった。
幼稚園の途中から眼鏡をかけ始めた。遠視と近視と乱視がごちゃ混ぜになったレンズは、当時はまだ今みたいな値段では買うことができなくて、5歳児には不釣り合いな服飾品だったけれど、お世辞にもかっこ良いとは言えない分厚いレンズの眼鏡だったことを覚えている。というより、幼少期のことで鮮明に思い出せるのはそれからのことばかりで、その前から通っていたプールのことや公園でのことなんかは全然思い出せないでいる。だから、きっともっとずっと前からよく見えていなかったのだと思う。思い出せないのは、思い出すべき情景がそもそも見えていなかったのだから。
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けどここでいう目が悪いというのは、そういった数値で測れる視力だけのことではなくて、見ようとするもののもう少し周辺のことだったり本質だったりを、あるいは裏側ばかり見ようとして見えている通りに見ることができないといったこと。
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この目の悪さは結構厄介なもので、どんなに高価な眼鏡を買ってきてもそれで一気に見えるようになるなんてことはなくて。むしろ、何枚も重ねてかけていたレンズを1枚ずつ外していくことで見えてくるようなものなんだと思う。いつの間にか視界を不透明でぼやけたものにさせてしまっている、今まで経験してきた常識や身につけてきた処世術、思い込みといった色々な形や厚さのレンズ。
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そうしたレンズを通さずに、自分自身の目や身体や心を通してみるということが僕は上手くできない。まだ本当の眼鏡をかける前、自分の本心に蓋をして親が望んでいるであろう答えを探して口にした時から、目には見えない眼鏡をかけはじめてしまったのだと思う。情景は思い出せないけれど、好きでいてもらいたくてそんなことを考えていたのは今でも忘れていない。もう長いこと他人が望む答えを見ようとする見方ばかりしてきた。とても狭い視界の中で必死に解答ばかりを探していて、それはつまりそもそもの問いを僕は自分で見つけていなかった。
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最近になってようやく少し変わってきた。自分の感覚で、感性だけで、世界を受けとめて表現しているのを間近に見て。それはとても素直で美しく、尊敬して僕もそうありたいと強く思うようになった。だから、まだまだ時間はかかるだろうけれど、もう大丈夫な気がする。そう思わせてくれた小さな彼に感謝を込めて。
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センス・オブ・ワンダー(レイチェル・カーソン)