『i』
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2020-06
まだ2020年も半ばだというのに、とんでもない本に出会ってしまった、と思った。電車の中でクライマックスに差し掛かってからは、ページをめくる手が止まらず、目的の駅についても、ページから目を離せなかった。そのままよたよたと電車を降り、(良い子は真似しないでほしい。電車を降りる時は足元注意!)。ホームのベンチに座り、10本は電車を見送ったころ、ようやっと顔をあげることができた。そして、とんでもない本に出会ってしまった、と思ったのだった。
主人公は、幼いころから「世界の不均衡」と向き合い、苦しんでいる。養子として、裕福な家庭で暮らす自分の影に存在する、“選ばれなかった”何万人ものかわいそうな子どもたち。かけがえのない友や、恋人との出会いの中で、主人公は人が生きる意味、他者を受け容れるということ、孤独そして愛について学んでいく。
西さんの本は、いつだって壮大なテーマに真っ向から挑み、そして読者に凄まじいエネルギーを与えてくれる。大げさな、と思われそうだが、これはわたしの人生にとってかけがえのない一冊になると思う。辛いことがあったとき、悲しいとき、きっとわたしはこの本を開き、救いを求める。他の誰かにとっても、同じようにこの本が救いになれば、うれしい。