『真夜中のパン屋さん 午前0時のレシピ』
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2019-07
まだ高校生で、実家暮らしで、毎朝ちゃんと新聞にざっとだけど目を通していたときに、一面の裏の書籍広告に載っているのを見つけた。「まよパン」という略し方が可愛くて、なんとなく頭に残って、そのまま忘れられずにいたら本屋さんで見つけたので買って読んでみた。
てっきり美味しいパン屋さんをめざす的な話なのかと思っていたらとんでもなくて、夜中にしかオープンしないパン屋さん・ブランジェリークレバヤシに集まるさまざまな人が、悩みのタネを落としてはそれを(ときには不本意ながらも)拾ってあげる人々の話。その悩みのタネが、重い。思ったよりだいぶ重い。でも不思議とするりと読めてしまった。2巻が出たら買って読んだし、次もその次もそうした。
シリーズが完結したのは私がとっくに主人公の希実の歳を抜いたときだった。芸大をめざしてデッサンばかりやっていて、文系理系の大学の記述試験にほぼ縁がなかった私の授業中の読書のお供であり、入学後も課題に追われて電車の中でウトウトするのが日課だったのにこの物語だけは全く眠くならずに読めた、そんな本。ちなみに、作者のサイン会にまで足を運んでしまった小説は今のところ大沼先生が最初で最後である。
完結を見届けたちょうどその年に、何のご縁か、イヤというほどパン屋がある街に越してきた。とてもじゃないがすぐには全店回りきれない。でも、これだけあったら、午前0時からやってるパン屋もどこかにひっそりと存在しているんじゃなかろうか。
この街にも悩みのタネをポロポロと落としていく人たちはきっとたくさんいる。私が指でめくるページの上だけではなく、しっかりと足で地面を踏みしめることができるこの土地で、それを拾う人たちもいるのだろうか。拾ったらどうするんだろう。交番に届ける人もいるし自分で解決しようと動き出す人もいるかもしれない。もちろん、気づかず通り過ぎる人も。救ったり救われたりする。その緩衝材としてパンがうまいこと効いているこのお話。
読後一年、そろそろ恋しくなってきた。
今日あたり、希実みたいに「うま」ってパンを頬張る女子高生とすれ違いそうだ。『真夜中のパン屋さん 午前0時のレシピ』 大沼紀子 著