『すてきな三にんぐみ』
-
2019-04
たぶん、絵本を読むより先にアニメ版(動く紙芝居みたいなやつ)を見たんだと思う。
馬車を壊したりコショウを噴射する動きが妙にブキミだった。
それから幼稚園の図書室ではこの絵本がものすごい人気になってしまって
いつ行ってもほかの人に借りられていて、あの青い表紙だけ、頭にずっとこびりついていた。場所と記憶というのはどうも強い結びつきがあるようで、今でもよく覚えていることがある。
一回だけ、幼稚園の図書室で母にばったり会ってしまった。
母はその当時PTAの役員をしていて、ほかのママさんたちと一緒に何かの打ち合わせをしていたからだ。
本当にたまたまだったのだが、わたしは嬉しくなってしまって少しのあいだ一緒にいた。
そして「じゃあね〜」と手を振って図書室を出て廊下に出たとたん、
両目から水がドバーーッと出てきた。急に視界がぐにゃぐにゃになってしまった。
なんとか自分の教室までは帰ってきたが、まあ泣いていたのでもちろん先生が放っておくわけもなく
特にピーピーギャーギャーわめいたわけでもないけれど、しばらく機嫌が悪かった。あとから母だったか先生だったかに言われた。「寂しくなっちゃったんだね」と。
年長さんになって、朝送ってもらったあとに泣き出すのがおさまったかと思ったのに
本来会えるはずの時間よりも前に会ってしまったせいで、何かがプッツンしてしまったようだ。ティファニーちゃんはみなしごだけど、三にんぐみについていってすてきな生活を手にいれた。
わたしはいま、親もいない、自分以外だれもいない部屋で暮らしている。ときどき、なぜかこの幼稚園の図書室でのできごとを思い出してしまう。
ちょっとおセンチな夜は、なぜかあの青い表紙を思い出してしまう。『すてきな三にんぐみ』 トミー・アンゲラー さく いまえよしとも やく