『さよならの夜食カフェ マカン・マランおしまい』
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2020-01
前々回に紹介した「なみだ」の時に書いた、ひっそりと泣いてしまった小説がこちらの作品。
なので、シリーズの4作目を紹介するという事態には目をつぶってくださいね。
短編ではあるので、どのシリーズから読んでもいいような気もしますが、一応時系列は整っているので、気になった方はぜひ1冊目の「マカン・マラン」からどうぞ。
夜食カフェ、マカン・マランを営んでいるのは、ピンク色のボブのウィッグをかぶり、素敵なロングドレスをまとい、ふさふさのまつげをつけた180㎝を超える大男であるシャール。ドラァグクイーンである彼女は、マカン・マランに迷いこんだ悩める人たちに美味しい料理をふるまい、話を聞いて寄り添います。
読んでいると家の近所にあったらいいのにと思わずにはいられないほどに、料理の描写が美味しそう。しかも食べるものが自分の体を作っているんだと改めて気づかされ、最近なんとなくコーヒーを少なめにしてみたり、フルーツを食べるようにしてみたり、自分にできることを始めてみたり。
人から散々非難されたり避けられたりしてきたシャールだからこそのアドバイスや考え方は、悩みに向き合う人々の心をそっとほぐして後押ししてくれる。それは読者も同じ。読みながら、シャールの料理に癒され、言葉に励まされる。
そんな『言葉』にほろっとしてしまったのが、1話目の「さくらんぼティラミスのエール」。
女子高生の希実は、悲劇のヒロイン症候群。よかれと思ってやっている友達に対しての言動もどこか自分本位で、ちょっとずつ孤立していく。でも、希実は自分ではなく周りが悪いと思っている。高校を出るまでの我慢だと言い聞かせていた頃、シャールに出会う。
そこで、大人になっても人付き合いは大変だということを思い知らされる。
「期待は簡単に甘えに変わる。甘えたくなるけど」
その甘えが、自分にもあるなと自覚できて、耳が痛かった。
相手がこうしてくれるだろうという期待が、こうしてくれるのは当たり前だよねという甘えに変わるその時に、シャールのこの言葉を思い出したいと思いました。
優しい言葉と時に厳しさがこもった忠告は、都度都度響いてきて、このシリーズを読んでいる時、とても幸せな気持ちに。
あぁ、マカン・マランに行きたい。そして、いつか誰かにとってのマカン・マランを作りたいなぁとしみじみ思う秋。
「さよならの夜食カフェ マカン・マランおしまい」古内一絵